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民俗学・宮本ゼミ

投稿者:(S)

武蔵野美術大学を卒業後、同学専攻科に進んで出会ったものに民俗学がある。教えていただいたのは宮本常一(1907~1981)教授。今でこそ日本の民俗学の泰斗と評されているが、私が学んだ1960年代初頭にはとても気さくな優しい先生であった。といっても、先生の授業はデザイン専攻科の履修科目にはなく他の学部でしか受けられなかったので、私はいわゆるモグリ学生であった。

講義も面白かったが、先生が得意とされた集落の実地調査に参加して地域における様々な生活文化を肌で識る、この型破りゼミの感動は大きかった。年度最後の授業として行われた山梨県上野原村の調査で、地の老人が編んだ竹籠を求めてリュック代わりに背負っての帰り道、先生から「君、いいものを買ったなぁ」と目を細めて褒めていただいたのも忘れ難い思い出である。勿論、私が正規の学生であるかどうかなど頓着されていなかっただろう。その証拠に次のような文を『民族学の旅』(1993年講談社文庫発行)に書いておられる。

「講義というのは一方的なもので大ぜいの学生に話しかけるだけで名を覚えることはほとんどない。しかしいろいろの問題をもって研究室にくる者があり、その学生たちと話すのはたのしかった。私はどうも学生たちが大学を出て大きな会社に勤めたり、官庁へ勤めたりしていわゆる立身出世するような将来を持つ学校へ勤める気がなかった。自分の力を出し切って生きてゆくような仲間ともっとも親しくしたかった。美術大学にひかれたのは、そこが実力の世界であったからである。」

更に続く次のような文章に接し、先生に教えを得る機会を得たことをつくづく幸せだと思う。

「物の本質のわかるということはすばらしいことであった。彼らは古いすすけた道具など見てもそれを汚いものとは見ないで、その中にひそむ造形的な美しさに心をひかれた。従来の民俗学は事象のうえをなぜて通るような聞取が多かったのであるが、美術学生は絵や図にすることが巧みで、農家や漁家にしても一軒一軒を実に丹念に測図していく。たとえば、一部屋一部屋におかれている物品まで、丁寧に測図していく。それによって部屋がどのように使われていたかが具体的にわかる。部屋は生きており、部屋の利用の仕方の変遷もわかる。またそのような家が組みあわさって集落ができていることもわかって来る。(中略)彼らは地理とか歴史とか、さらにこまかく美術史とか生活史とか、学問をこまかく分類してそれを身につけていく、いわゆる論理的であることにはそれほど興味を示さず、どうしたら人間の本質を知ることができるか、人間のエネルギーとは何であるか、人間の英知とはどういうものであるかを知りたがった。ただ衝動的にではなく秩序をたて実践を通して知りたがった。こうした学生の群にぶつかったのははじめてであった。」 

デザインはものの本質を洞察する作業が半分、そして、得たものを表現するのが半分だと私は長年の経験から悟った。同じようなことを先生は30年前に著しておられたのだ。(S)


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