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列車の旅

投稿者:(M)

JR九州には、「デザインは公共のため、デザイナーは公僕であれ」をポリシーとするデザイナー水戸岡鋭治氏のおかげで魅力的な車両がたくさんある。自宅近くの踏切でそれらが通り過ぎるのを眺めるたびに、いつか乗ってみたいと思っていた。九州での11年、自動車や飛行機で福岡から沖縄までひたすらに走り回ったような気がする。私たちの仕事は鉄道の駅前にあるわけではなく、効率よく動くには車に限るし、仕事のついでに遊ぼうという欲もあって、二人で動くときには鉄道を利用することは滅多にない。

究極の列車旅をしようということで、汽車に乗ることにした。熊本と人吉を結ぶSLが期間限定で走るという。その車両が水戸岡氏のデザインによるものだという情報を『家庭画報11月号』の特集で得たのは丁度1ヶ月前。発売日の朝から予約センターに電話するも全くつながらず、つながったときには売り切れていた。ならば、と「ゆふいんの森号」「九州横断特急」「はやとの風」「しんぺい」「SL人吉」と同氏のデザインによる特別魅力的な列車にキャンセル待ちをかけ、それから1ヶ月の間に全ての予約がOKになった。本当にまるまる1ヶ月をかけて手に入れた旅である。

九州の中なら大抵のところは日帰りで行ける。それを3日かけてのんびりと列車に揺られた。SLでは、出発を告げるカランカランカランという鐘、ブォーという汽笛、シュッシュッシュという蒸気を吐く音、ガタンという出発の際の揺れ、窓の隙間から入って来る煙の臭い、どれも本当に懐かしかった。でも昔とは全く違う。シートがとても上等(柔らかいというのではなく=ここ、椅子を作る人間として拘ります)でお尻や腰が痛くならない。細部までレトロに仕上げた木部や照明器具、あちこちにあしらわれたロゴなどが美しい。横揺れしないスムーズな動き。昔のSLの不快な部分がすっかり取り去られていた。この違いがわかるのは私たちの世代までだろう。0911SL 134s0911SL 118s

 

 

 

 

 

 

運行にもさまざまな工夫が凝らされている。駅ごとに3~6分停車し、沿線の人たちとの小さな交流もある。ある駅では赤い実を付けたツルウメモドキの枝を「どうぞお持ちください」と渡され、ある駅では甘酒をふるまわれ、そして駅でも沿線でもみんなが手を振ってくれた。私たちも地元の人の作った菓子や赤飯を買い、車内から盛大に手を振った。

SL以外の特急列車も、乗り継ぎをしたワンマンの鈍行列車も含めて、旅を楽しむ仕掛けが溢れていた。現代、移動手段に求められる最も重要な要素はスピードであろう。そんな時代に時速60kmのSLを走らせるならこうでなければ、という企画者の思いが随所に感じられた。そして、その究極のはからいは、SLを下りてから知らされた。SLの車内で聞いたアナウンスは「予定より4分遅れて熊本に到着します」。スムーズに乗り継いだ特急の車内アナウンスは「出発が4分遅れましてご迷惑をおかけしました」。最新鋭の特急列車が、のんびり旅のためのSLの到着を待っていたということ。もちろんSLから乗り継いだ人以外は、そんな事情を知らない。

世の中、効率より優先されるものがあっても良い、という意識が久々に大手を振る時代になったのかも知れません。(M)


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